今回のコラムでは,前回に引き続き,契約不適合責任のうち買主保護の規定について少し詳しく解説していきたいと思います。
契約不適合責任とは
改正民法562条1項では,
「引き渡された目的物が種類,品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは」
というように契約不適合責任という概念が採用されました。
これは,目的物が特定物か不特定物かで区別せず,目的物が契約内容に適合していないことに対する責任を認めたものです。この場合の責任として、改正民法は「買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。」と定めています。
従前、目的物に「隠れた瑕疵」があった場合、契約目的が達成できない場合は解除することができ、解除をすることができない場合は損害賠償請求のみをすることができるとされておりました(現行民法第570条、第566条第1項)。
改正の結果,買主保護の手段についても大きく変更されることがわかります。今回は特に,解除ができる場合,損害賠償請求ができる範囲について注意が必要です。
①追完請求
追完請求とは,買主が,売主に対し,売買目的物の修補や,代替物の引渡し,不足分の引渡しを請求することができるという権利をいいます。
現行民法では,例えば,物件の引き渡しを受けたらその物件に雨漏りがあったとしても、上述の通り、契約解除または損害賠償請求しかできないので、買主は売主に対して、雨漏りの原因箇所の修補を請求することはできませんでした。
改正民法では,不動産売買においても買主の追完請求権が認められることになります。さらに付言すると、改正民法では、買主が雨漏りについて知っていた場合でも追完請求ができることになり、注意が必要です。なぜなら,改正民法では,現行民法のように「隠れた」瑕疵であることを必要としていないからです。
そこで,不動産売買契約においては,買主が知っている不適合部分について売主として責任を負わないように,あらかじめ売買契約書において定めておくことが必要になると思われます。
②解除
現行民法では,隠れた瑕疵の存在により買主が契約をした目的を達することができない場合にのみ、契約解除ができました(現行民法第570条、第566条第1項)。
改正民法では,契約不適合の場合に「解除権の行使を妨げない」(改正民法564条)と規定されているので,不動産の買主は相当の期間を定めた催告をしたうえで契約を解除することができます(改正民法541条本文)。もっとも,「債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」(改正民法541条但書)は契約の解除ができません。
買主は、契約不適合があっても契約の目的を達成することはできるが,当該契約不適合が軽微とまでも言えない場合には解除ができることになります。
その結果,これまで以上に解除ができるケースが増えると思われます。
軽微といえるか否かは,当該契約及び取引上の社会通念に照らして判断されますが,改正民法のもとでは,軽微な不適合といえるか否かが大きな争点になると思われます。
③損害賠償
現行民法では,瑕疵担保責任は法定の無過失責任と考えられていたことから,瑕疵担保責任に基づく損害賠償の範囲は信頼利益,つまり,瑕疵がないと信頼したことによる利益の賠償に限られていました。
これに対して,改正民法では,瑕疵担保責任を債務不履行の特則と考える契約責任とされたことで、損害賠償の範囲も債務不履行責任に基づく損害賠償の範囲と同じように考えられます(改正民法第564条、第415条)。
すなわち,損害賠償の範囲は履行利益,つまり完全な履行がされたならば得られたであろう利益(たとえば,値上がり利益や転売利益など)も含むことになり,瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求として信頼利益に限定されていた損害の範囲は拡大すると考えられます。
売主としてできること
改正民法のこれらの規定も任意規定であり,特約によって契約不適合責任を限定したり,契約不適合責任を負担しないとすることは可能です。
ただし,宅地建物取引業者が自ら売主となる宅地・建物の売買については,民法上の瑕疵担保責任のルールを契約書で修正することが原則としてできません(宅建業法40条)。
また,売主が事業者であり買主が消費者の場合には,損害賠償責任を負担しないとする特約は、当該事業者が履行の追完をする責任又は不適合の程度に応じた代金若しくは報酬の減額をする責任を負うこととされている場合を除き無効となりますし(民法改正整備法による改正後の消費者契約法8条),契約不適合に基づく消費者の解除権を放棄させる特約は無効とされています(民法改正整備法による改正後の消費者契約法8条の2)。
今回は不動産売買における契約不適合責任のうち買主保護の規定について少し詳しく解説しました。
不動産売買におけるトラブルを予防し,不測の損害が発生することを防ぐためにも,改正民法の内容を踏まえた不動産売買契約書の見直しが必要になりますので注意が必要です。
約1年にわたり,前半は不動産取引に関する一般的な問題点,後半は民法改正に伴う不動産取引への影響について解説させていただきました。
地主さんや家主さん,これから不動産を購入しようと考えている方にとっては,このコラムでは取り扱いがなかった事例や問題点も多々あるかと思います。しかし,問題を抱え込むと解決への道のりは一層遠くなります。いち早く弁護士などの専門家に相談されることが早期解決,より良い解決への第一歩になるかと思います。
最後までお読みいただき,ありがとうございました。
以上
この記事を書いた人
吉山 晋市(よしやま しんいち)
弁護士法人みお綜合法律事務所 弁護士
大阪府生まれ 関西大学法学部卒業
弁護士・司法書士・社会保険労務士・行政書士が在籍する綜合法律事務所で,企業法務,不動産,離婚・相続,交通事故などの分野に重点的に取り組んでいる。
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